質的データ分析:M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)の3つの要点
M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)は、人と人がかかわりあうという社会的相互作用にまつわる現象の説明と予測を可能にする、実践的な理論を産み出す質的研究のアプローチです。日本の保健医療、福祉、心理、教育、経営など、多様なヒューマンサービス領域における質的研究で使われています。本研修では、具体的な研究例を参照しながら、M-GTAにおける分析の3つの要点(分析テーマの設定、分析焦点者の設定、分析ワークシートの活用)を確認し、分析結果として最後に理論を生成するまでの全過程を詳しく解説します。また、M-GTAを使った質的研究を現在実施している、あるいは今後実施しようと計画している会員のために、自己学習に役立つ関連書籍の紹介や、研究を進めるうえで参考になるアドバイスの提供も行う予定です。90分間と限られた時間ではありますが、M-GTAという質的研究方法論の魅力を、少しでも皆さんにお伝えできればと思います。
山崎浩司(やまざき・ひろし)
信州大学 医学部准教授(Ph.D.)。1970年米国ワシントンD.C.生まれ。
専門は死生学、社会学、質的研究。近年は、死別体験者に支援的なまちづくりの検討(長野県・中信地方の有志市民との協働)、いのちがテーマのマンガを題材にした死生学的考察および教育、配偶者死別の研究に取り組んでいる。
また、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を中心に、質的研究方法論に関する研究や教育も行なっている。
ポリティカリー・インフォームド・アプローチ:倫理・社会正義・政治と心理カウンセリングの統合
心理カウンセリングは面接室の二者関係に閉じられたものでは決してありません。面接室の中で扱われる現象は、それを取り巻く社会の文脈においても理解される必要があります。クライエントの苦悩は単にクライエント個人の問題ではなく、単に家族システムの問題でもなく、社会政治的な問題でもあるのです。カウンセラーのいわゆる逆転移も、同様に、単にカウンセラー個人の問題ではなく、単にカウンセラーの家族システムの問題でもなく、社会政治的な問題でもあります。ポリティカリー・インフォームド・アプローチは、社会政治的な要因を考慮に入れた心理カウンセリングへのアプローチです。近年、アメリカ心理学会のカウンセリング部会やアメリカ・カウンセリング学会など、重要な専門家コミュニティが心理カウンセリングのコア・バリューとして社会正義の推進を掲げていますが、それもこのアプローチと軌を一にしたものです。
日本ではあまり知られていないこのアプローチを、産業カウンセリング学会の皆さんと一緒に探索してみたいと願っています。
杉原保史(すぎはら・やすし)
京都大学学生総合支援センターセンター長、教授(教育学博士)。臨床心理士・公認心理師。心理療法統合学会、副理事長。1961年神戸市生まれ。
専門は、学生相談、青年期・成人期の心理療法、特に心理療法への統合的アプローチ。心理療法統合運動を導いたポール・ワクテルの著作をこれまでに5冊翻訳している。伝統や権威に縛られず、効果的な心理支援のあり方を模索しており、最近はSNSを用いたカウンセリングの推進にも取り組んでいる。
著書に『プロカウンセラーの共感の技術』(創元社)、『プロカウンセラーの薬だけに頼らずうつを乗り越える方法』(創元社)、『技芸としてのカウンセリング入門』(創元社)、『キャリアコンサルタントのためのカウンセリング入門』(北大路書房)、『心理カウンセラーと考えるハラスメントの予防と相談』(北大路書房)、『SNSカウンセリング・ハンドブック』(共編・誠信書房)など。
量的データ分析:EXCELでできる簡単な統計分析
研究をするうえで統計分析は避けて通れない関門です。特にカウンセリングや心理療法など心理支援の専門家にとっては馴染みの薄い領域かもしれません。また、統計分析で使用するツールは高価であったり、プログラミングが必要であったりと、取り組むうえでハードルが高いこともあります。そこで、本研修では、身近なツールであるEXCELを用いた統計分析の手順を学んでいきます。EXCELには統計分析に関連した「関数」と「分析ツール」が備わっていますので、これらを使ってt検定、分散分析、相関分析などの分析方法を解説します。どのような分析から何がわかるのか、調査データ例と合わせて紹介します。
難しい数式はいっさい登場しません。これから研究を始めようとしている方、あるいは、データは取ったものの分析の前で立ち止まっている方など、統計分析の入門者におすすめの内容になっています。
高橋浩(たかはし・ひろし)
ユースキャリア研究所代表。法政大学などの大学講師。博士(心理学)・国家資格キャリアコンサルタント・公認心理師。1987年、日本電気のグループ会社に入社し半導体設計、経営企画、キャリア相談に従事。2001年、CDAを取得、2012年、博士号取得を機にキャリアカウンセラーとして独立。
現在は、行政や大手企業でのキャリアカウンセラー、キャリア開発研修講師などを務めている。2016年~2020年、厚生労働省委託事業にてセルフ・キャリアドック導入推進の委員やアドバイザーを務めている。
主著『社会人のための産業・組織心理学入門』(共著・産業能率大学出版部)、『セルフ・キャリアドック入門』(共著・金子書房)など。
ナラティヴ・セラピーに触れる:関心を持って話を聴くこと、聴いてもらうことへの招待
今回、「ナラティヴ・セラピー」について、お話する機会をいただきました。私の取り組んでいるナラティヴ・セラピーは、オーストラリア人のマイケル・ホワイトとニュージーランド人のディヴィッド・エプストンの貢献によって形作られたアプローチです。このアプローチは、どうすれば目の前の人に敬意を払いながら、その人のために大切な、豊かな会話を続けていくことができるのか、そんな意図や方向性を持っています。今回は、今学び始めている方や、少し興味を持った所にいるという方も参加されるだろうということで、ナラティヴ・セラピーがどのような姿勢で会話に臨むか、そしてその会話はどのようなものになりうるのか、そんなところを感じてもらえればと思っています。
具体的には、今上にあげたようなところをお話して、その後、実際に参加者同士で「ナラティヴの視点を持った質問を持って、相手の話を聞いてみる」ようなワークをしたいと思っています。
90分という短い時間ですが、ナラティヴ・セラピーというものに、触れて感じていただける時間になればなと思っています。
横山克貴(よこやま・かつき)
一般社団法人 ナラティヴ実践協働研究センター センター長、東京大学大学院 教育学研究科 博士課程在学、臨床心理士。
1990年、神奈川県相模原市生まれ。東京大学大学院にて臨床心理学を学び、語りやナラティヴについての質的研究に取り組む。その傍らでナラティヴ・セラピーと出会い、強く惹かれ、2018年、ワイカト大学のカウンセラー養成コースに1年間留学してこれを学ぶ。帰国にあわせ、2019年に仲間と共に一般社団法人ナラティヴ実践協働研究センターを立ち上げる。現在は、同法人にて、ナラティヴ・セラピーの実践や研究、その普及に取り組んでいる。
著書に、『ナラティヴ・セラピーのダイアログ 他者と紡ぐ治療的会話、その〈言語〉を求めて』(共編著、北大路書房)。
組織に働きかけるナラティヴ・アプローチ
私たちの目に映るさまざまな問題、そして、その問題の解消あるいは解決を目指すためのさまざまな方法論があります。ナラティヴ・アプローチは、そのような今見えている問題に真っ向から対応するのではなく、そのような問題は、どうしてそのように見えているのかについての検討から着手します。
このような方向性の背後には、私たちのものの見方、捉え方、意味づけは、社会文化的な影響を受けており、それとの関係性、そして人と人の関係性の中から立ち現れていくるという、社会構成主義的な視点があります。この視点を手にしてみると、私たちの解決努力そのものが問題存続に貢献してしまっていることだって見えてきてしまうのです。
対人支援の中で育まれてきたナラティヴ・アプローチを、組織開発の領域についてどのように活用しうるのだろうか、ということについて、私は直接の経験を持ち合わせていません。私は、対人支援の領域で活動してきました。組織開発の領域で応用していくための検討は、みなさんと一緒にしていく必要があります。このワークショップが、検討を始めるための起点となってもらえればと願っています。
国重浩一(くにしげ・こういち)
ナラティヴ実践協働研究センター。1964年、東京都墨田区生まれ。ニュージーランド、ワイカト大学カウンセリング大学院修了。臨床心理士、ニュージーランド、カウンセラー協会員。
鹿児島県スクールカウンセラー、東日本大震災時の宮城県緊急派遣力ウンセラーなどを経て、2013年からニュージーランドに在住。同年に移民や難民に対する心理援助を提供するための現地NPO法人ダイバーシティ・カウンセリング・ニュージーランドを立ち上げる。2019年には東京に一般社団法人ナラティヴ実践協働研究センターの立ち上げに参加。
著書に、『ナラティヴ・セラピーの会話術』(金子書房)、『震災被災地で心 理援助職に何ができるのか?』(編著)、『どもる子どもとの対話』(共著、金子書房)。訳書に、『ナラティヴ・アプローチの理論から実践まで』、『ナラティヴ・メデイエーション』、『心理援助職のためのスーパービジョン』(ともに共訳)など。
生活困窮者の包括的支援 ソーシャルワークとの連携
コロナ禍の今、これまでの働き方、暮らし方では生活維持が厳しい人が増加しています。
生活には、就労、介護、医療、教育、家族関係などさまざまな問題があり、単に就職先が決まれば問題が解決するというわけではありません。対人支援職である私たちにできることはどのようなことがあるのか、包括的な支援をどのように進めていけばよいのでしょうか。生活インフラの担い手である地方自治体での現場経験を踏まえて、検討していきたいと思います。今回は一つの事例を取り上げ、支援計画を作成していただくようなグループワークも試みたいと思います。
関谷大輝(せきや・だいき)
東京成徳大学応用心理学部准教授。1977年、埼玉県生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、横浜市役所(社会福祉職)に入庁し、福祉事務所および児童相談所において、ケースワーカーとして勤務。公務員としての仕事の傍ら、筑波大学大学院修士課程教育研究科カウンセリング専攻(カウンセリングコース)、同大学院人間総合科学研究科生涯発達科学専攻博士後期課程を修了。博士(カウンセリング科学)。2013年より、現職。社会福祉士、精神保健福祉士、国家資格キャリアコンサルタント、公認心理師、温泉ソムリエ。著書に『あなたの仕事、感情労働ですよね?』(単著,花伝社,2016)『職業的感情管理および仕事と家庭の分離が養育行動に及ぼす影響―共働きの母親を対象とした検討―』(健康心理学研究, 特集号, 2019)など
堀口康太(ほりぐち・こうた)
白百合女子大学人間総合学部発達心理学科講師、筑波大学働く人への心理支援開発研究センター非常勤研究員。2006年川崎市入庁(社会福祉職)。児童相談所および、区役所での児童家庭相談・生活保護、本庁での児童虐待対策等に従事。筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達科学専攻修了(博士:生涯発達科学)。2017年〜2020年3月筑波大学人間系附属学校教育局特任助教を経て、2020年4月より現職。臨床発達心理士、社会福祉士、専門社会調査士、公認心理師。著書に大川一郎・土田宣明・高見美保編著(2020)『基礎から学べる医療現場で役立つ心理学』ミネルバ書房.(分担執筆)。